AIが翻訳し、文章を書き、プログラムまで作ってくれる時代に、学校や大学では何を教えるべきなのでしょうか。前回は、基礎を学ぶことの価値について考えました。しかし、基礎が大切だからといって、これまでの科目や教え方をそのまま維持すればよいとは限りません。

今回は、外国語、プログラミング、アカデミックライティングなどを例に、AI時代の教育を、その目的から問い直します。


目次

  • 外国語を学ぶ目的は何なのか
  • Pythonを教えること自体が目的なのか
  • アカデミックライティングで何を学ぶのか
  • 「この授業は何のためか」から問い直す

外国語を学ぶ目的は何なのか


AI時代、これまでの科目や教え方をどう見直すべきか。このようなことを考えていくうえで、わかりやすいのが外国語教育です。

自動翻訳が進歩し、海外のウェブサイトや文献等も簡単に日本語で読めるようになりました。大学では、英語教育の必修単位をもっと減らすべきではないかという議論もあります。機械翻訳やAIが急速に進歩する中で、これまでと同じ時間をかけて英語を学ぶ必要があるのか。さらに第二外国語まで含めて考えると、外国語を必修科目として学ぶ意味についても、あらためて問われるようになっています。

これに対して、外国語を学ぶのは、「単に話せるようになるためではなく、異なる国の文化やものの考え方を理解するためでもある」と説明されることがあります。それはその通りだと思います。

しかし、異文化を理解するためには、外国語を何年間も学ぶことが必要なのでしょうか。

海外へ行くこともできます。外国から来た人と交流することもできます。AIによる翻訳を使って、これまで言葉の壁によって接することが難しかった文章や文化にも、比較的容易に触れられるようになっています。海外の社会や文化について知ることが目的なら、外国語の学習以外にも、さまざまな方法が考えられるわけです。

一方で、外国語を自分で学ぶことには、翻訳技術の利用とは異なる価値があります。

たとえば、日本語と外国語では、同じ物事でも言葉の使い方や表現の仕方が異なります。そうした違いを学ぶことで、自分が当たり前だと思っていたものの見方を問い直すことができます。また、外国語で文章を読み、自分の考えを表現しようとする過程では、言葉の意味や文脈を深く考えることも求められます。

外国語を学ぶことは、異文化を知るだけでなく、自分自身の言葉や考え方を見直し、ものの見方を広げることにもつながるのです。

ただし、こうした価値があるとしても、すべての学生が従来と同じ内容を、同じ時間をかけて学ぶ必要があるとは限りません。外国語の学習を通じて何を身につけてほしいのか。その目的に照らして、翻訳技術の活用や異文化に直接触れる経験なども取り入れながら、教育内容や方法を見直すことができるはずです。

大切なのは、外国語を学ぶ必要があるかないかという二者択一ではなく、何のために、何を、どこまで学ぶべきなのかを考えることだと思います。

Pythonを教えること自体が目的なのか


プログラミング言語についても、同じことが言えます。大学では時代によって、FORTRAN、BASIC、Pascal、Cなど、さまざまな言語が教えられてきました。最近ではPythonが広く使われています。

ところが、バイブコーディングが広がり、日本語などの普段使っている言葉でAIに指示すれば、プログラムを即座に書いてくれ、アプリまで作れるようになっています。では、もはやPythonなどのプログラム言語を学ばなくてもよいのでしょうか。

これについても、取捨選択の判断は容易ではありません。プログラミング言語を学ぶことには、コードを書けるようになることとは別の価値もあります。文法や構造を理解する。物事を順序立てる。処理の流れを論理的に考える。複雑な問題を小さな部分に分解して設計する。これらのような「プログラミング的な思考」を身につける意味は、現代において小さくありません。前回お話しした、知的な基礎体力をつけるという意味もあるでしょう。

さらに、AIが生成したプログラムが意図したとおりに動くのか、どこに問題があるのかを判断するためには、言うまでもなくプログラミングについての理解や知識が役立ちます。AIに任せられることが増えたからといって、何も知らなくてよいというわけではありません。

とは言え、次に問うべきことは、「論理的思考や構造的思考を鍛えるために、Pythonを学ぶことが本当に最もよい方法なのか」ということです。もし同じ能力をもっと効果的・効率的に身につけられる方法があるなら、そちらを使ってもよいはずです。

もちろん、プログラマーやソフトウェア開発の専門家を育てるのであれば、プログラミング言語を深く学ぶ必要性は大きいでしょう。しかし、専門家になるわけではない学生に、どこまでコードを書く力を求めるべきなのか。AIを使ったバイブコーディングを使ったプログラム作成の経験を通じてでも、問題を整理し、設計し、結果を検証する力を育てる新たな方法も考えられるかもしれません。

大切なのは、Pythonを教えること自体を目的にしないことです。授業を通じて学生にどのような力を身につけてほしいのかによって、Pythonを教えるべきか、別のプログラミング言語や手法を使うべきか、あるいはAIを積極的に活用すべきかという判断も変わってくると思います。

アカデミックライティングで何を学ぶのか


これはプログラミングだけの話ではありません。たとえば近年、大学では初学者向けにレポートの書き方やアカデミックライティングを教えるようになりました。しかしながら、課題を丸投げされたAIがレポートを書けるようになった今、大学で文章の書き方を教えることの意味も、あらためて問われています。